荒草会日報

世界樹の迷宮5 長き神話の果てリプレイ。基本畳むけど独自設定とネタバレ注意。

皇帝ノ月 1日① やってきました、アイオリス

天気の良い朝だった。石畳のアイオリスの街では昼も夜も冒険者が闊歩する足音が絶えないが、陽の光とともにその音たちもぐっと増えたようだった。 
「よいこらしょ〜」
街外れの坂で、ミッコが掛け声とともに路盤より一段高くなった石垣にリュックを上げる。
「……ミッコさんや、おばあさんになっとんで……」
すかさずアフロから突っ込みが入った。いつも通りえへへ、と照れくさそうに笑うミッコとともに、とりあえず一息入れることにしたアフロは隣にリュックを置いてうんと伸びをする。
「大きい街やなあ」
「ほんとですね〜」
坂から見下ろす景色に故郷を離れたことを実感する。もう、ここは草原ではないのだ。風には土草の香りが混ざっているものの、慣れ親しんだ故郷のものではない。石畳をわたるこの香りは、樹木の幹や葉のものがうんと強く立っている。ちょうど街を挟んで反対側の、巨木という言葉では到底足りない樹木ーー世界樹からの風だからだろう。
「あれが世界樹かぁ…」
「大きいですね〜……いや、あれですよ!?大きいのは知ってましたよ!?ほら、思ったよりも大きいっていうか!!」
アフロのどことない哀れみの視線を感じ、ミッコは求められてもいない蛇足をつけ加えた。

 

***

 

 

アイオリスの評議会から出た「世界樹踏破のお触れ」は瞬く間にアルカディア中をかけめぐった。
アフロとミッコの住む街はアイオリスには劣るもののアルカディアの中でもそれなりに大きい都市だったということもあって、お触れが出たその日の夕方には号外が配られ、次の日には気の早い冒険者達が装備もそこそこに早速アイオリスへと旅立っていった。
一方、冒険者ではない庶民はどうしていたかというと、こちらも「お触れ特需」ともいえる好景気に沸いた。アフロとミッコが働いていた工房も多分に漏れず納品依頼がうんと増えた。需要があるなら応えねば、と来る日も来る日も他の工房の人々とともに二人は働いた。
が、何分忙しすぎた。
お給金はちゃんと出ていたが、ひたすら薬草を選別しては紐留めし適切な箱に入れるという仕事にまずアフロが飽いた。彼女は遠方に住む妹に手紙を出しては「毎日毎日同じことの繰り返しで生きてる気がしないんだヨ……」としきりにぼやいていたという。手は慣れており量はこなしているのだが、それ故に新しい配合を試す時間がとれずぬけがらのようになっていた。
続いてミッコがやらかした。精霊たちと会話して薬草類の収穫時期を確認していたが、完全に1シーズン間違えて工房に報告していたのだ。結局工房長の工房長らしい七面六臂の活躍でなんとかなったが、こんなことが続くと流石にフォローしきれない。当のミッコは反省はしている様子だったが、おおらかな性格が故に早くもまたふわふわとしたやり取りをしているようだ。
工房長は彼女達がひととき現場から離れる必要があると感じた。飽きもミスも当然あるだろうが、このままではもっとよくないことが起こるだろう。かといって、あからさまに暇を出すのも心苦しく、もっといえば折角ならば工房にプラスになるようになんとかならないか。
そんなこんなで、アフロとミッコは「世界樹の低層でいいから実際に商品を使ってみたり自分の力を使ったりして工員としてスキルアップしてきな」とアイオリスへ送り出されたのであった。

 

 ***

 

「とりあえず二人で世界樹に挑むわけにもいかんし、あと何人かメンバー増やしたいね」
「そうですね〜」
桃色の三つ編みを揺らしながらミッコがリュックの中をごそごそと探っている。
「……何探してんの?」
「せっかく見晴らしがいいのでお茶でもと思って〜」
んんん〜、と唸りながら探り当てた手には保温性の高い樹皮でできた水筒があった。
「昨日の夜出かける直前にいれたのでまだアツアツだと思いますよ〜」
はいどうぞ、とアフロに手渡されたカップにはなみなみとミルクティが注がれていた。
「焦ってもしょうがないですし、信頼できそうなヒトをさがしましょ」
「……せやな」
アフロがずずっと一口すすると眼鏡が曇ってすぐに晴れ、また世界樹の威容が目に入る。低層とはいえ、この中に入るのかと思うとなんだか感慨深い。
「ミッコはどんなヒトと旅したい?」
水筒につづいて甘味と思しき小さな小箱を取り出したミッコにアフロは問うた。
「個人的にはまずは前衛やってくれて、あんまり騒がしくない人がええなあとか思っとるんやけど」
私らふたりとも後衛やし、というアフロの希望を聞いてん〜〜〜とひとしきり唸った後、
「どんな方でもきっと楽しいと思いますよ〜。それに私、ここまでで十分に旅した!って感じで…これから更にあの中に入るんだと思うと、それだけでなんだか胸がいっぱいになってます〜」
ミッコらしい言葉、それでいて自分と同じ気持ちであるという。
職場では部署の違いもあってほとんど交流もなく、やりとりをするようになったのは工房長の命で旅立つことが決まってからだ。聞いてはいたが本当におおらかでのんびりしていて、割とカリカリくるタイプの自分とは正反対だ、とアフロは思っていた。同性とはいえうまくやっていけるのだろうか、とも。
また少し強い風が吹いて、群青色の髪がアフロの視界を遮る。
「さよか」
なんだか笑みが溢れるのをアフロは自覚していた。
「あっ、でもでも甘いものと手芸好きな人だと嬉しいです〜」
「私も甘味は好きやで。ベリー干したやつとか」
「そうなんですか〜!じゃあ手芸好きな人ですね〜」
「……そんなん見つかるかな……」
「いるかもしれないじゃないですか!!手芸系男子!!」
「あっ、男がええんやね」
「いやいやいやいやいやそういうわけでは……!」
「前衛でうるさくなくて手芸好き男子……」
「うっ……多分一人ぐらいいますよ〜!」
 二人は知らない。ひと目でそれと分かる背丈のブラニー族の青とピンクいうなかなか目立つ髪の色をした二人ーーしかもベタベタななまり眼鏡っ娘と天然っぽい赤面っ娘というキャラ立ち具合の二人がわいわいやっていれば、それなりに目立ちそれなりに噂の種になるということを。
かくして、光の速さで広まった「どうも今日出てきたお上りさんっぽいピンクと青のブラニー女子二人組が寡黙な手芸系男子を前衛に探しているらしい」という噂のお陰で、求めていたパーティーメンバーは予期せぬ速さで現れることになる。

(つづく)